最高の臨界温度を有するスピン三重項超伝導の発見

2021年12月23日

◆発表のポイント

  • 超伝導は、二つの電子が対を作って動き回るエネルギー損失のない量子状態です。既知の超伝導体のほとんどは電子対がスピンの向きを逆さまにするスピン一重項状態にあります。
  • 今回、K2Cr3As3で6.5Kという高い臨界温度でスピン三重項超伝導状態の実現を発見しました。この場合、電子対スピンの向きが同じ方向に揃います。このような新奇な状態はトポロジカル的に非自明で、次世代量子コンピュータへの応用が期待されます。
 岡山大学学術研究院自然科学学域(理)の鄭国慶教授は、遷移金属Crを含む物質K2Cr3As3が6.5K(ケルビン)というかつてない高い臨界温度でスピン三重項超伝導を実現していることを発見しました。さらに、この超伝導状態の波動関数はトポロジカル的に非自明で、トポロジカル量子計算に応用できることを示しました。本研究成果は日本時間12月23日4時に、米国科学誌「Science Advances」に掲載されます(オープンアクセス)。
 超伝導は、二つの電子が対を作って動き回るエネルギー損失のない状態です。二つの電子がスピンの向きを逆さまにする場合はスピン一重項といい、スピンの向きを揃えた場合はスピン三重項といいます。既知の超伝導体はほとんどスピン一重項状態にあり、スピン三重項超伝導体は数個の候補しかありません。また、スピン三重項状態を同定する手段も限られています。
 今回、鄭教授は中国科学院物理研究所の研究者と共同で、核磁気共鳴法測定によりK2Cr3As3がスピン三重項超伝導体であることを発見しました。これは、2016年に鄭教授らがCuxBi2Se3(転移温度3.5K)で発見したスピン三重項超伝導よりも高い臨界温度を持ちます。


図1. K2Cr3As3の結晶構造、磁場・温度相図、および超伝導電子対のスピン配置。色塗されている領域は超伝導状態。電子はピンクの球で、二つの電子のスピンが向きを揃えている(スピン三重項状態)様子は緑の三角錐で表されています。大きい青三角錐は電子対の軌道角運動量を、波線は電子間の引力を表しています。上部臨界磁場は非常に高く、低温では20テスラを超えています。1テスラは1万ガウス。なお、地磁気は約1ガウスです。

図2. K2Cr3As3におけるスピン磁化率の方向依存性。図1を導く実験データです。磁場をc軸に垂直に印加すると、超伝導状態に突入してもスピン磁化率が変わりません。それに対して、磁場をc軸に平行に印加すると、超伝導転移温度以下ではスピン磁化率が減少します。これは、電子対の二つのスピンが揃い、低磁場ではc軸に垂直(ab面内)に向いていることを意味します。

◆研究者からのひとこと
 スピン三重項超伝導は極めてまれな量子現象で、その物理の解明が基礎科学のみならず、産業への応用の面においても重要です。今回、高い温度(ヘリウムの液化温度より高温)でのスピン三重項超伝導が明らかになったことで、今後の研究に弾みがつくと期待しています。
鄭教授

■論文情報
論文名: Spin-Triplet Superconductivity in K2Cr3As3
掲載誌:Science Advances
著者:Jie Yang, Jun Luo, Changjiang Yi, Youguo Shi, Yi Zhou, & Guo-qing Zheng(鄭国慶)
DOI:
https://www.science.org/journal/sciadv

<詳しい研究内容について>
最高の臨界温度を有するスピン三重項超伝導の発見

<お問い合わせ>
学術研究院自然科学学域(理)
教授 鄭 国慶
(電話番号)086-251-7813

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